世は新型コロナウイルスで騒然としているのに……と我ながら呆れつつも、何せ年末からずっと頭が腐りっぱなしで気持ちの切り替えができません。
とっくに忘れたはずの同人界隈のことまでゾンビのように蘇ってきたりするのですが、手に入らなかった幻の本などを徒然なるままに検索していたら、なんと高松のBe-1と、下北沢のコミケットサービスが閉店してるじゃないですか……それも3年くらい前に。
その間、特にわたしの需要がなかったということでもありますが、この2軒では、池袋の乙女ロードでは決して手に入らないようなお宝を掘り出したこともあり、今日のように病気が再発したときの心の拠り所でしたのに……。在庫の行方が気になりますが、全国のまんだらけなどに散らばったのでしょうか。

……という前振りからの、今回の話題は同人ではなく、BL実写です。
懲りずに腐った話題だけど、おっさんずから離れただけでも進歩だと思って!
おっさんたちのせいなのか、小説・漫画もいいけど実写もね、という気分になっていて、とは云えあんまりポルノやAV寄りのものだとかえって萌えられないので、腐女子友達が薦めてくれた、いわゆる鉄板名作BLの実写版を観てみることにしました。
2020年も早や2番目の月に入ったというのに、本当にどうかしていると思いますが……だって今年は、ついに『窮鼠はチーズの夢を見る』も公開だしね!やっとこさ公開日も発表されたし! 第一印象は、今ヶ瀬がちょっとイメージと違うかなあとか思っていたんですが、ちらほらネットに出て来る宣伝ビジュアルを見たら、だんだんストライクゾーンに入ってきて、楽しみで仕方ない。

まず、おっさんず熱がいったん収まったところで観たのが、『ポルノグラファー』『インディゴの気分』。
昨年末、件の腐友からDVDを借りていたのですが、おっさんたちの世界からなかなか心を移すことができず、やっとのことで年明けに鑑賞。すでに方々で語られ絶賛されているだけあって、素晴らしい作品でした。
2作は続きになっていて、原作漫画があります。深夜とは云えBLドラマが地上波で放映されるというので、界隈ではかなり話題になったようです。
おっさんとはまた違った、胸が締め付けられる感じ、それは萌えというよりも切なさなのかもしれません。おっさんはあれほど盛大に心を揺さぶられながらも特に号泣したという記憶もないわたしが、このドラマでは随所にこみ上げてくるものがあって、うっかり誰かと一緒に観なくてよかった……と思いました。
鬼束ちひろの主題歌もいいんだよな~。特に『ポルノグラファー』の「Twilight Dream」がいい。頭出しを聞くだけできゅーんと胸が絞られる。
登場人物は、官能小説家の木島、大学生の久住、そして編集者の城戸。『インディゴの気分』ではもう1人、官能小説界の大御所である蒲生田という老人が重要な役割を担いますが、ほぼこの3人で展開します。
3人とも決して極端な過去やトラウマなどは抱えていないのだけど、全編がほの暗く、儚く、ブルーな(インディゴな?)雰囲気を纏っていて、見終えると深いため息を吐きたくなって、心に何か重いものが残るような余韻が凄い。見終えてしばらくの間、つい自分まで気怠い感じになってしまいました(笑)。
最初は正直、知らない俳優さんばっかりだし……と及び腰になっていたのですが、見終わったらメインキャストの3人のことがとても好きになってしまい、公式ブックまで買う羽目に。原作漫画を後で読んで、主役の木島先生以外はそんなに似てないなあと思ったけれど、むしろ原作に対して「違うじゃーん!」と武蔵の口調で云いたくなるほど、映像とキャスティングが素晴らしかった。ドラマはかなり原作に忠実に作られているのですが、それが功を奏してか、原作を実写が超えたんじゃないかと思えるほどの世界観を作り上げていて(自分がドラマから観ているせいもありますが……)、三次元の破壊力って凄いなあと感嘆。
特に木島先生=竹財輝之助は、神キャスティングですね。おっさんずもそうだけど、この手のドラマはキャスティングが命だとつくづく思う。本当に失礼ながらそれまで全然彼のことを知らなくて、もったいない限りです。齋藤工に似ているとよく云われているようですが、もうちょっと中性的で繊細な雰囲気。これで39歳とか信じられない。でもこの年齢だからこんなに色気があるのかしら。細い縁の眼鏡が最高に似合っていて、眼鏡外してもやっぱり美形で、昔、自分のHPに眼鏡をかけたスナップを載せていたときに、「美人なら眼鏡かけてても美人とわかる。こいつは違う」などと巨大掲示板で書かれたことを急に思い出してしまいました(粘着質ですまんw)。
ちょっと調べてみたら、去年のNHK『旅するスペイン語』講座の旅人だったのですよね。今なら、拝みながらガン見してスペイン語をマスターするのになー!


どちらも面白かったのですが、どちらかというとわたしは、続編の『インディゴの気分』のほうが好みです。木島が久住と出会う前の、城戸との過去のお話。
冒頭の城戸のモノローグ、「なんとも説明しづらい関係ってあるだろ」という言葉が、ラストに繋がっていくんですが、きちんと結ばれなかったがゆえに、一生心の奥で燻り続ける思い、切なさと背徳感が背中合わせになったような思いを、十字架のように背負っていくっていうのがもうねえ、堪らないです。
それはとても辛いんだけれど、どこか甘美でもありますよね。永遠に閉じ込められた、だけど確かに生きている感情。人や人生の陰影や味わい深さは、そういうところにあると思ったりして。『モーリス』のラストで、ヒュー・グラント演じるクライヴが、自分のもとを去っていくモーリスの幻影を見るシーンを思い出します。
自分が古い人間なのかもしれないけれど、ピュアな愛と同じように、歪んだ愛……というか愛が変質してしまった感情、執着とか嫉妬とかただの性欲みたいな後ろ暗い劣情を、フィクションには求めてしまうのです(現実世界だと劇薬すぎるのでね)。
一瞬恥ずかしさで目を覆いたくなるような激しめの濡れ場もありながら、それ以外のところでの肉付けが本当に上手い。純文学から転向して官能小説を書きあぐねる木島に、蒲生田が「経験なんかなくてもいいんだ。自分の欲望を自覚すればいい」という場面や、病魔に侵されていく蒲生田を前に憔悴する木島など、サイドエピソードにも見どころがいっぱい。

なんか、あまりにもよく出来ているので、これなら腐ってない友達に普通のドラマとして薦めても差し支えないんじゃないかな? とうっかり思ってしまいましたが、結構な裸と絡みのシーンがあるため、冷静に考えたらやっぱ差し支えますかね!
あんまりAVばりにがっつりやりまくっていると、もはや一作品としての評価がしづらいのですけど、これはほんとにギリギリのラインで品を保っている感じ。一歩間違えたら大事故になりそうなところ匙加減を絶妙に調節した、奇跡的な出来だなーと思います。

次に観たのが、『宇田川町で待っててよ。』
これは先に原作漫画を読んでから観ました。漫画も素晴らしかったのですが、わりと淡々とした雰囲気の漫画が、今どきのイケメン(主役2人がジュノンボーイ)によって三次元化されると、やっぱり破壊力が増しますね。映画というよりスペシャルドラマみたいな小作品ですが、そのコンパクトなサイズ感と、『ポルノグラファー』シリーズよりも演者が初々しいのが、この物語の世界観に合っていたと思います。
舞台は男子校、クラスではまるで存在感のない陰キャ主人公の百瀬と、対照的にイケてるグループに所属する八代。だけどある日、密かに女装趣味のある八代が、渋谷の喧騒のなかでその女装姿を百瀬に見つけられてしまうところから、物語は始まります。この舞台が、渋谷ってところがまずいいです。毎日の通勤で渋谷のスクランブル交差点を通らねばならないのが辛すぎるせいもあり、渋谷よりも断然新宿派のわたくしですが、この設定はやっぱ渋谷でないとね!
わたしはそれまで、女装男子というジャンルには、知識も萌えもなかったのですが、八代の絶妙な女装具合にはドキドキしてしまいました。元が綺麗な顔だから女の恰好をしてもかわいいんだけど、やっぱりどうにも男がチラ見えする、よく見たら妙に上背あるし咽喉仏もあるしやっぱ男なんじゃね?というような、完成度80~90点くらいの女装、これを実写で表現できているのが素晴らしい。歌舞伎や宝塚とも違う、性別の境界に立っている際どくて危うい美しさ。よくよく思い出してみると昔からわたし、「八犬伝」の犬坂毛野には特別な感情を抱いていましたし、萌えツボなのかもしれません。にわかに女装男子に興味が湧いて、大島薫の著書にまで手を出してしまったわ。この調子で行けば、そのうちオメガバースも嗜めるようになるかも!?
萌えとは別に考えさせられたのは、「周りの目を気にせずに好きな服を着る」という気概についてです。

女装や男装は、ファッションという以上に性癖の面も大きそうですが、わたしもやっぱり、好きな服を好きなように着ることが自分を肯定することに繋がっているから、「自分でも(女装は)似合ってないってわかってる」と自虐する八代に、なんの疑問もてらいもなく「かわいい」と云ってのける百瀬の姿には、ときめきとともに、神々しささえ感じてしまいました。それは好きになるわ!

 

長くなりそうなので、後編に続きます。